スタッフブログ

staff blog

地震の揺れを「見える化」する意味

2026年7月28日、熊本県で最大震度7を観測する大きな地震が発生し、気象庁はこの地震を「令和8年熊本地震」と命名しました。大きな地震が起こるたびに、私たちはあらためて「家の耐震性能」について考えさせられます。

地震に強い家とは、単に「耐震等級3だから安心」というだけではありません。もちろん、耐震等級3や許容応力度計算はとても重要です。しかし、実際の地震の揺れは、一度の力が建物に加わって終わるものではありません。

大きな揺れが何度も続き、建物は時間とともに変形します。ある部分が少し傷むと、そこにかかっていた力が別の部分へ移り、次の損傷につながることがあります。地震による倒壊は、ひとつの部材が壊れて終わるのではなく、小さな変形や損傷が連鎖して起こるものです。

そこで重要になるのが、木造住宅倒壊解析ソフトウェア「wallstat」です。

wallstatとは何か

wallstatは、木造住宅に過去の巨大地震や想定地震の揺れを与え、建物がどのように揺れ、どこが変形し、どのように損傷していくかをパソコン上で確認できる倒壊解析ソフトです。

開発元の京都大学によると、

  • wallstatは建物を3次元的にモデル化し、過去の地震動や想定される極大地震などを与えることで、木造住宅の耐震性能を動画で「見える化」できるソフト
  • 建物が倒壊するまで計算できることが大きな特徴

また耐震性能見える化協会では、wallstatは京都大学生存圏研究所、国土交通省国土技術政策総合研究所、建築研究所、東京大学大学院での研究成果をもとに製作された数値解析ソフトウェアと説明されています。

つまりwallstatは、感覚的な安心材料ではなく、研究成果に基づいた解析ツールです。

計算だけでは伝わりにくい耐震性能

住宅の耐震性を確認する代表的な方法に、許容応力度計算があります。

許容応力度計算は、柱や梁、耐力壁、接合部などにかかる力を計算し、それぞれが許容範囲を超えていないかを確認する大切な構造計算です。サンキハウスでも、許容応力度計算は耐震性能を確認するための重要な手段として考えています。

しかし、許容応力度計算は基本的には「部材が大きな力に耐えられるか」を確認する静的な計算です。

一方、実際の地震は時間とともに揺れ方が変わります。建物は揺れながら変形し、損傷が進むことがあります。サンキハウスの過去記事でも、地震は「一発の揺れ」ではなく、時間変化を伴う動的な現象であり、小さな変形の積み重ねが倒壊につながる可能性があると説明しています。

wallstatは、この「時間とともに建物がどう動くか」を確認できる点に大きな意味があります。

令和8年熊本地震であらためて考えるべきこと

今回の令和8年熊本地震のように、震度7クラスの地震が発生すると、住宅には非常に大きな力が加わります。

ここで大切なのは、「基準を満たしているか」だけでなく、「実際の大地震の揺れを受けたときに、建物がどのように動くのか」を確認することです。

図面上では同じ耐震等級に見えても、間取り、開口部の大きさ、耐力壁の配置、上下階の壁のバランス、接合部、床や屋根の剛性によって、揺れ方は変わります。

特に木造住宅では、建物全体のバランスが重要です。

一部だけを強くしても、力の流れが偏れば、別の弱い部分に負担が集中することがあります。大きな吹き抜け、大開口、壁の少ないLDK、上下階で壁の位置がずれている間取りなどは、設計段階で慎重に確認する必要があります。

wallstatを使うことで、そうした建物全体の揺れ方や変形の傾向を、動画として確認することができます。

可視化には、人に伝える力がある

耐震性能は、専門用語だけではなかなか伝わりません。

「耐震等級3です」
「許容応力度計算をしています」
「壁量は足りています」

これらは大切な説明ですが、一般のお客様にとっては、実際に自分の家が地震でどう揺れるのかまでは想像しにくいものです。

wallstatの価値は、耐震性能を「見える化」できることです。

建物がどの方向に揺れるのか。
どの部分に力が集中するのか。
どの壁が先に損傷しやすいのか。
変形が大きくなると、どのように倒壊へ近づいていくのか。

これらを動画で見ることで、専門知識がない方でも、耐震性能を直感的に理解しやすくなります。

京都大学の発表でも、wallstatは木造住宅の耐震性能を動画で確認できることに加え、消費者が耐震性能を比較しやすくなる新しい評価指標の導入にも触れられており、将来起こりうる巨大地震時の被害軽減につながることが期待されています。

サンキハウスがwallstatを使う理由

サンキハウスでは、全棟でwallstatによる倒壊シミュレーションを行っています。

過去の記事でも、実際の熊本地震・益城町の震度7波形を使ったwallstat倒壊シミュレーションを実施していることを紹介しています。許容応力度計算が「一度の大きな地震力に耐えられるか」を判定する静的な計算であるのに対し、wallstatは「時間とともに変形が連鎖し、倒壊に至る過程を再現する動的シミュレーション」として位置づけています。

また、以前の検証では、益城町の地震データで建物を揺らしたところ、変形する可能性のある部分を確認し、必要に応じて補強を検討したことも紹介しています。

これは、wallstatを単なるプレゼン用の動画として使っているのではなく、設計改善のための確認ツールとして使っているということです。

地震に強い家づくりでは、「強そうに見える」だけでは不十分です。
実際の揺れを想定し、弱点があれば設計段階で直す。

これが、wallstatを使う大きな意味です。

2×4・2×6工法とwallstat

サンキハウスが採用している2×4・2×6工法は、床・壁・屋根を面で支えるモノコック構造です。

地震の力を点ではなく面で受け止め、建物全体で力を分散しやすいことが特徴です。しかし、どれだけ優れた工法であっても、間取りや開口部の取り方、壁の配置バランスによって耐震性能は変わります。

だからこそ、工法の強さだけに頼るのではなく、計算とシミュレーションの両方で確認することが大切です。

許容応力度計算で部材や基礎の安全性を確認する。
wallstatで実際の地震波に対する建物の動きや損傷の進み方を確認する。

この二つを組み合わせることで、より実際の地震に近い視点で家の安全性を検討できます。

これからの耐震性能は「説明できること」が大切

令和8年熊本地震は、あらためて私たちに地震への備えの重要性を突きつけました。

日本に住む以上、巨大地震を完全に避けることはできません。
しかし、建てる前にできることはあります。

地震に対してどのような設計をしているのか。
どのように安全性を確認しているのか。
大きな揺れを受けたとき、建物がどのように変形する可能性があるのか。

これらを設計者が説明できること。
そして、お客様が目で見て理解できること。

これからの家づくりでは、この「説明できる耐震性能」がますます重要になると思います。

耐震等級3を取得すること。
構造を計算で設計すること。
そしてwallstatで大地震時の挙動を確認すること。

これらは別々のものではなく、ご家族の命を守るために重ねて確認すべきものです。

まとめ

wallstatは、木造住宅に地震波を入力し、建物がどのように揺れ、変形し、損傷し、場合によっては倒壊に至るかを動画で確認できる解析ソフトです。

今回の令和8年熊本地震のような大きな地震を目の当たりにすると、住宅の耐震性能は「基準を満たしているか」だけではなく、「実際の揺れに対してどう動くのか」まで確認することが重要だと分かります。

耐震性能は、目に見えにくい性能です。
だからこそ、可視化することに意味があります。

サンキハウスでは、計算による構造確認に加え、wallstatによる倒壊シミュレーションを行い、設計中の建物の耐震性能を確認しています。

地震に強い家をつくるために必要なのは、感覚や経験だけではありません。
計算し、検証し、見える化すること。

それが、これからの地震大国・日本で、安心して暮らせる家づくりの基本だと考えています。

投稿者プロフィール

伊豆川達也
伊豆川達也宅地建物取引士