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気密は家の耐久性のため?― アメリカが住宅の気密性を求める本当の理由

かつてアメリカの住宅では、気密性能を高める主な目的は冷暖房費の削減でした。

しかし現在では、それだけではありません。

住宅の隙間を通して移動する湿った空気が、壁の中で結露を起こし、カビや木材の腐朽につながることが問題視されるようになりました。

アメリカの建築科学では、気密性能は省エネだけでなく、住宅を長持ちさせるためにも欠かせない性能として位置づけられています。

その過程を振り返ると、日本の住宅づくりにも重要な示唆があります。

1. 1970年代、気密化の出発点はオイルショックだった

アメリカの住宅気密化が本格的に進むきっかけの一つは、1973年のオイルショックです。

エネルギー価格の高騰を受け、1976年には住宅の省エネ改修を支援する「Weatherization Assistance Program(WAP)」が制度化されました。

当初は断熱材の施工やコーキングによる隙間塞ぎが中心でした。

その後、1980~90年代にブロワードアによる気密測定や赤外線カメラが普及し、建物全体の性能を評価する考え方が発展していきました。

ブロアードアによる気密測定の様子

この時代の目的は明快です。

暖房した空気を逃がさない。冷房した空気を逃がさない。
つまり、エネルギーを無駄にしないための気密化でした。

2. 断熱性能を高めたことで、壁内結露が新たな課題に

住宅の断熱・気密性能が高まるにつれ、研究者たちは建物内部の湿気に注目するようになります。

例えば冬の寒冷地。

室内の暖かく湿った空気が壁の隙間から断熱層へ入り込むと、冷たい構造用面材付近で結露することがあります。

逆に夏の高温多湿地域では、外気の湿った空気が壁内に侵入し、冷房で冷やされた室内側の部材に接することで、結露や高湿化を引き起こす場合があります。

空気の漏れによる壁内結露の仕組み

【冬型結露】
室内の湿気が外壁へ
冷たい構造用面材付近で結露
【夏型結露】
外気の湿気が壁の中へ
冷房で冷えた室内側の壁内で結露

この問題は、断熱材を厚くするだけでは解決できません。

アメリカの建築科学者ジョセフ・リスティブレック氏らの研究でも、湿気の移動には、材料内部を水蒸気が拡散する現象だけでなく、隙間を通過する空気そのものによる移動が重要だと指摘されています。

「断熱材は熱の移動を抑えるものであり、必ずしも空気の移動を止めるものではない。」

この認識が、気密施工の意味を大きく変えていったのです。

3. 省エネから耐久性へ。アメリカの建築科学がたどり着いた考え方

米国エネルギー省の住宅研究プログラム「Building America」は、2015年の研究開発計画で、住宅の耐久性に関わる湿気の主な侵入経路を整理しています。

そこでは、雨水の侵入、隙間からの湿った空気の流入、水蒸気の拡散、室内の湿った空気が冷たい面で結露する現象などが挙げられています。

さらに重要なのが、濡れることを完全に防ぐだけでなく、濡れた建材が乾燥できる構成にする必要があると明記していることです。

つまり、住宅の耐久性を確保するには、次の三つを同時に考える必要があります。

  • 気密層で湿った空気の不必要な出入りを抑える。
  • 防湿・断熱設計によって壁内の湿気や温度を管理する。
  • 万一濡れた場合でも、排水や乾燥ができる構成にする。

気密性能さえ高ければ、結露しないわけではありません。

雨漏りを防ぐ防水設計、適切な透湿抵抗、断熱材の配置、換気や除湿も必要です。

それでも、隙間から湿った空気が自由に流れ込む状態では、壁内の湿気を設計どおりに管理することは困難です。

気密は、断熱性能を発揮させる技術であると同時に、木材や構造用面材を湿気から守る技術でもあるのです。

4. アメリカでは気密性能を「測定する」ようになった

こうした研究と並行して、建築基準も変化してきました。

アメリカのモデル省エネルギー基準であるIECCでは、2009年版から2012年版にかけて、住宅の気密性能に関する要求が強化されました。

2024年版では、さらに厳しい数値が示されています。

IECCの気密性能基準の変遷

数値はACH50の上限。数値が小さいほど高気密。

2009年7.0 、目視検査または気密測定
2012年5.0 / 3.0(温暖地 / その他の地域)、気密測定を要求
2024年4.0 / 3.0 / 2.5(気候区分0~2 / 3~5 / 6~8)

出典:米国DOE・IECC。2024年版は規定仕様方式の一般的な上限。小規模住宅等の例外や性能評価方式による別基準があります。(気候区分2と3が静岡に最も近い気候、Warm & Humid)

2009年版では目視検査でも認められていた気密確認が、2012年版では測定を要求する方式に変わりました。

ただし、IECCは全米一律の法律ではありません。採用する年版や内容は州・自治体によって異なります。

ここで重要なのは、気密性能を施工者の経験や感覚に任せるのではなく、完成した住宅を実測して確認する方向へ進んだことです。

5. 日本のC値と、国際的に使われるACH50は何が違うのか?

ここで日本と海外の気密性能の評価方法を整理しておきましょう。

日本で一般的に使われるのは「C値」。

一方、アメリカや国際的なパッシブハウス認証では「ACH50」という数値が使われています。

どちらも送風機で建物に圧力差をつくり、隙間から漏れる空気量を測定する点は共通しています。

しかし、測定結果を何で割って評価するかが違います。

日本のC値:隙間の面積を床面積で割る

C値は相当隙間面積と呼ばれ、住宅の隙間を一つの穴に置き換えたときの有効面積を、実質延べ床面積で割ったものです。

例えば、床面積100㎡の住宅で、総相当隙間面積が30㎠なら、

C=30100=0.3C=\frac{30}{100}=0.3C値は0.3㎠/㎡になります。

実際には、複数の圧力差で測定した漏気量から通気特性を求め、9.8Paでの相当隙間面積を計算します。

ACH50:50Paでの漏気量を住宅の気積で割る

ACH50は、建物の内外に50Paの圧力差を与えたときの漏気量を、住宅の気積で割った値です。

例えば、気積300㎥の住宅で、50Pa(パスカル)時の漏気量が180㎥/hなら、

ACH50=180300=0.6ACH50=\frac{180}{300}=0.6ACH50は0.6回/hになります。

これは、50Paという試験条件で1時間に気積の60%に相当する空気が漏れるという意味で、通常の生活中に0.6回の自然換気が行われるという意味ではありません。

国際規格ISO 9972では送風機による気密測定方法が規定され、50Paを基準とした指標が広く利用されています。ただし、世界中がACH50だけを使っているわけではなく、外皮面積当たりの漏気量などを使う国もあります。

C値とACH50の比較

項目日本のC値ACH50
評価するもの相当隙間面積50Pa時の漏気量
分母床面積気積
単位㎠/㎡回/h
数値小さいほど高気密小さいほど高気密

この2つは単純に換算できません。

例えば、ACH50=0.6をC値に換算するには、住宅の床面積、気積、圧力と漏気量の関係を示す隙間特性値などが必要になります。

建物条件を仮定すれば概算はできますが、「ACH50=0.6なら必ずC値0.3」といった固定の換算式はありません。

なお、ドイツのパッシブハウス認証ではACH50=0.6以下という厳しい気密基準が採用されていますが、これはアメリカの一般住宅に一律に要求される基準ではありません。

6. 高気密化の先にあるのは、計画換気と湿気の管理

もう一つ、アメリカの住宅研究から学べることがあります。

気密性能を高めると、隙間からの自然な空気の出入りが減少します。

しかし、室内では人の呼吸、調理、入浴などによって水蒸気や汚染物質が発生します。

これらを排出しなければ、室内空気質の悪化や高湿化につながります。

米国DOEの住宅研究でも、気密化とともに適切な機械換気を導入し、室内空気質や湿度を管理する重要性が示されています。

つまり、必要な空気は計画換気で取り入れ、不要な隙間からの空気の出入りは防ぐ。

そのうえで、壁の中へ湿気を侵入させず、万一濡れても乾燥できる壁構成にする。

このように、気密・断熱・換気・防湿を一体として考えることが、住宅の耐久性を高める基本になっているのです。

まとめ:気密は住宅を長持ちさせるための性能でもある

アメリカの住宅気密化は、1970年代の省エネルギー対策を出発点として発展してきました。

その後、断熱性能の向上とともに壁内の湿気に関する研究が進み、気密は建物の耐久性を確保するためにも欠かせない性能として認識されるようになりました。

この考え方は、高温多湿な日本でも重要です。

特に静岡のように夏の湿度が高い地域では、冷房によって室内側の部材が冷やされるため、湿った外気が壁の中へ侵入する経路を適切に遮断する必要があります。

もちろん、気密性能だけで結露を防げるわけではありません。断熱材の配置、防湿層の位置、通気層、乾燥性能を含めた壁全体の設計が欠かせません。

それでも、建物の隙間を放置したままでは、湿気の移動をコントロールすることはできません。

気密性能は、冷暖房費を安くするためだけのものではありません。
壁の中に湿気を持ち込ませず、大切な構造材を守り、住宅を長く使い続けるための基本性能でもあるのです。

投稿者プロフィール

伊豆川達也
伊豆川達也宅地建物取引士