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「パッシブ設計」はポエムになっていないか?――パッシブハウスとの違いから考える、その功と罪

住宅業界では、いつの頃からか「パッシブ設計」「パッシブデザイン」という言葉をよく耳にするようになりました。

「太陽の光や熱を上手に取り入れる家」
「自然の風が通り抜ける家」
「機械設備に頼らず、自然の力で快適に暮らす家」

どれも耳触りのよい言葉です。

もちろん、その考え方自体は間違っていません。むしろ住宅を設計するうえで、とても大切な考え方です。

しかし最近、この「パッシブ」という言葉があまりにも広い意味で使われるようになり、本来まったく別物である「パッシブハウス」と「パッシブ設計」が混同されているように感じます。

そして、ここに現在のパッシブ設計が抱える一つの問題があります。

パッシブ設計とは何なのか

一般的にパッシブ設計とは、エアコンなどの機械設備だけに頼るのではなく、太陽の熱や光、風などの自然エネルギーを建築的な工夫によって利用する設計手法を指します。

よく挙げられるのが、

  • 断熱・気密
  • 日射遮蔽
  • 日射熱利用
  • 自然風利用
  • 昼光利用

という5つの要素です。実際、多くの住宅会社がこうした項目を「パッシブデザインの5要素」として紹介しています。

例えば冬なら、南側の窓から太陽熱を取り入れる。

夏なら、庇や外付けブラインドによって強い日射を室内に入れない。

春や秋には窓を開け、気持ちのよい外気を取り込む。

昼間は自然光を利用して、できるだけ照明を使わない。

これは、建築として非常にまっとうな考え方です。

問題はここからです。

「どこまでやればパッシブ設計なのか」が決まっていない

「パッシブ設計」という言葉には、一般名称として統一された数値基準があるわけではありません。

南側に大きな窓を設けても「パッシブ設計」。

軒を深くしても「パッシブ設計」。

窓を対角線上に配置して「風の通り道をつくりました」と説明しても「パッシブ設計」。

もちろん、それぞれに意味はあります。

しかし、

その窓から冬に何kWhの熱が入るのか。

その一方で夜間には何kWhの熱が逃げるのか。

夏の日射を何%遮ることができるのか。

その結果、年間冷暖房負荷はいくらになるのか。

ここまで確認しているかどうかは、会社によって大きく違います。

極端にいえば、設計者が「自然を活かしました」と言えば、それだけでパッシブ設計を名乗ることもできてしまいます。

だから私は、ときどき思うのです。

数値による検証のないパッシブ設計は、少し「ポエム」に近くなっていないだろうか、と。

「パッシブハウス」はまったく別物

一方、「パッシブハウス(Passive House)」は性格が違います。

ドイツのパッシブハウス研究所(Passive House Institute)が定める明確な性能基準があり、設計した人が「これはパッシブハウスだと思います」と言えばパッシブハウスになるわけではありません。

例えば現在の基準では、暖房について、

年間暖房需要 15kWh/㎡・年以下

または

暖房負荷 10W/㎡以下

という明確な基準があります。

さらに気密性能についても、

n50≦0.6回/h(日本のC値で、0.2~0.3cm²/m²)

という基準があります。

冷房・除湿需要についても、その地域の気候条件を考慮した基準が設定されています。

そして重要なのが、これらをPHPP(Passive House Planning Package)という計算ツールを使って設計段階から検証することです。日本でのパッシブハウス認定にもPHPPが必須とされています。

つまり、房や除湿についても地域の気候条件を考慮して評価します。

ですから、ドイツで建てるパッシブハウスと日本で建てるパッシブハウスが、同じ窓の大きさ、同じ庇、同じ断熱仕様になる必要はありません。

むしろ重要なのは、

その地域の気候に対して、その建物がどう振る舞うのかを計算すること。

これは本来、パッシブ設計が目指している方向とも一致しています。

「自然の風を利用する」にも注意が必要

パッシブ設計では「自然風利用」がよく語られます。

春や秋の気候のよい時期に窓を開け、風を取り込むのはとても気持ちのよいものです。

しかし、日本の夏は高温多湿です。暑く湿った外気を取り込めば、室温だけでなく室内の湿度も上がり、冷房・除湿の負担を増やすことがあります。

つまり、

「風が通る家」と「夏に快適な家」は必ずしも同じではありません。

自然風は、季節や温度、湿度を見ながら上手に利用することが大切です。

パッシブ設計の「功」と「罪」

パッシブ設計の「功」

パッシブ設計の大きな功績は、住宅を「設備で快適にする」のではなく、建物そのものの工夫で冷暖房負荷を減らすという考え方を広めたことです。

断熱・気密、窓の配置、日射取得や日射遮蔽などを設計段階から考えることは、快適で省エネな住宅をつくるうえでとても大切です。

そしてパッシブ設計の「罪」

一方で「パッシブ」という言葉が便利に使われすぎて、数値的な裏付けがなくてもパッシブ設計と呼べてしまうことには注意が必要です。

「太陽と風を活かす家」といったイメージだけでは、本当に快適で省エネな家なのかは分かりません。

大切なのは、パッシブという言葉ではなく、その効果がきちんと計算・検証されているかです。

「パッシブ」という言葉ではなく、数字を見よう

家づくりを検討している方が、

「御社はパッシブ設計ですか?」

と聞いても、おそらく多くの住宅会社が「はい」と答えるでしょう。

それよりも、こんな質問をしてみてください。

年間暖房需要を計算していますか?

年間冷房需要を計算していますか?

夏の日射取得を計算していますか?

窓の日射取得と熱損失の収支を確認していますか?

気密性能は実測していますか?

冷房だけでなく除湿についても考えていますか?

こう質問すると、その会社が言う「パッシブ」が思想なのか、それとも実際に検証された設計なのかが少しずつ見えてきます。

パッシブ設計を「ポエム」で終わらせないために

太陽を利用することも、風を利用することも、庇で日射を遮ることも、とても大切です。

しかし住宅は、自然を賛美するためにつくるものではありません。

そこで暮らす家族が、暑さや寒さを我慢せず、少ないエネルギーで快適に暮らすためにつくるものです。

だからこそ、

「自然を活かしました」で終わるのではなく、「その結果、どれだけ快適になり、どれだけエネルギーを減らせたのか」まで確認する。

それが、本来のパッシブ設計ではないでしょうか。

パッシブ設計は素晴らしい思想です。

だからこそ、言葉だけの「ポエム」にしてはいけない。

パッシブという言葉ではなく、その家が実際にどうなるのかを数字で確かめる。

これからの住宅設計に必要なのは、そこだと思います。

投稿者プロフィール

伊豆川達也
伊豆川達也宅地建物取引士