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見えなくなるところに、家の価値がある

家づくりに使える予算には、上限があります。外観も内装も設備も性能も、すべてに十分なお金をかけられれば理想ですが、現実にはどこかで優先順位をつけなければなりません。

そのため、家づくりでは「何を選ぶか」と同時に、「どこにお金を使うか」が、その家の性格を大きく左右します。

最近の住宅は、外観やインテリアの完成度がとても高くなっています。軒をなくしたモダンな外観や、キュービックな建物形状、ガルバリウム鋼板やタイルを使った外壁、大きな窓や存在感のあるキッチンなど、建物を見た瞬間に価値が伝わる要素も増えました。

キュービックな建物形状
存在感のあるキッチン
タイルを使った外壁

こうした部分にお金を使うことには明快な満足があります。毎日目にするものですし、住む人自身が気に入っていれば、それだけでも十分な価値があります。

一方で、住宅には完成するとほとんど見えなくなる部分があります。

耐震性を高めるための構造、断熱材、気密処理、壁内結露を防ぐための防湿や透湿の計画、外壁の通気層、屋根内部の換気、二重屋根などです。

これらは完成後の外観から判断することはできません。壁の中の気密処理や断熱材の施工状態は、仕上げ工事が終われば、建てた本人にも簡単には確認できなくなります。

しかし、住宅の性能や耐久性を考えるうえでは、こうした見えない部分が大きな役割を果たします。

見える価値と、見えない価値

住宅の価値には、大きく分けると「見える価値」と「見えない価値」があります。

外観、内装、設備、素材などは比較的分かりやすい価値です。実物を見れば違いが分かり、写真でも伝えることができます。

一方、耐震、断熱、気密、防露、通気、防水といった性能は、完成した住宅を眺めただけではほとんど分かりません。

それでも、住み始めるとその違いは少しずつ表れてきます。

冬の室温差が小さいこと、夏の熱気がこもりにくいこと、冷暖房した空気が逃げにくいこと、湿度を管理しやすいこと。さらに、壁や屋根の内部では、構造材を湿気や結露から守るための仕組みが働き続けています。

これらは住宅展示場を短時間見学しただけでは分かりませんが、何十年と暮らす住宅では無視できない部分です。

完成した瞬間より、その先が大切

住宅は、完成した時点が最も新しい状態です。

その後は、雨や風、強い日射、夏の高温多湿、冬の室内外温度差、台風や地震など、さまざまな環境に長期間さらされます。

そのため住宅には、完成時の美しさだけでなく、時間が経っても性能を維持できることが求められます。

構造、防水、断熱、気密、通気、防露といった部分は、見た目を整えるためのものではありません。住宅の耐久性や快適性を支える基礎的な部分です。

例えば、壁内結露を防ぐための施工に手間をかけても、完成後にそれを見ることはできません。二重屋根にして通気層を設けても、それが住宅の外観を大きく変えるわけでもありません。

それでも、こうした部分は建物が使われている間、長期にわたって働き続けます。

暖かい家と「健康寿命」

見えない住宅性能を考えるうえで、健康との関係も重要です。

伊香賀俊治・慶應義塾大学名誉教授らによる大規模調査では、住宅内の温度と血圧、身体活動、入浴行動などに関連があることが報告されています。特に冬の室温が低い住宅ほど血圧が高くなる傾向があり、断熱改修後に室温が上がった住宅では、血圧が低下する傾向も確認されています。

また、居間だけでなく廊下や脱衣所まで暖かい住宅では、高齢者の身体活動量が多い傾向も示されています。

もちろん、暖かい家に住めば病気にならない、寿命が延びる、と単純に言えるものではありません。ただ、人は一日の多くの時間を住宅の中で過ごします。

断熱や気密にお金をかけることは、光熱費を抑えるだけでなく、毎日を過ごす生活環境そのものへの投資でもある。

住宅性能を考えるとき、健康寿命という視点も無視できないと思います。

見えない性能には社会的な意味もある

耐震性の高い住宅は、大きな地震を受けた際の損傷を抑えやすくなります。断熱・気密性能の高い住宅は、冷暖房に必要なエネルギーを減らしながら、室内環境を安定させやすくなります。

また、壁や屋根の内部で結露を起こしにくくし、構造材を健全な状態に保つことができれば、住宅を長く使える可能性も高まります。

住宅が長持ちすれば、建て替えの回数が減り、解体によって生じる廃棄物や、新しい住宅を建てるための資源消費も減ります。

そう考えると、耐震や断熱、防露といった性能にお金を使うことは、住む人の快適性や安心だけでなく、長い目では社会全体にも関係することになります。

日本の住宅は何に価値を置くのか

現在の住宅情報は、どうしても外観やインテリアが中心になります。

住宅雑誌でもSNSでも、完成した住宅の写真が主役です。これは住宅を紹介する以上、当然のことだと思います。

ただ、その写真だけでは分からない部分にも、住宅会社ごとの大きな違いがあります。

どの程度の耐震性を求めるのか。どこまで断熱性能を高めるのか。気密性能を実測するのか。壁内結露をどう考えるのか。屋根や外壁の通気をどのように確保するのか。

こうした部分は、完成写真には写りません。しかし、住宅の寿命や住み心地を考えるうえでは非常に重要です。

外観や設備にお金を使うことと、性能にお金を使うことは、本来どちらか一方を否定する話ではありません。

ただ、予算に上限がある以上、その配分には住宅会社や建て主の考え方が表れます。

見えるものを重視するのか、見えないものにも十分な予算を残すのか。そのバランスによって、完成する住宅は大きく変わります。

誰にも褒められないところに、お金をかける。

完成した住宅を見て、断熱材の施工を褒める人はほとんどいません。壁の中の気密処理や、屋根の通気層について話題になることもまずないでしょう。

それでも、そうした部分に費用と手間をかける理由があります。

住宅は、完成した瞬間だけを見るものではなく、その後何十年も使い続けるものだからです。

外観やインテリアの美しさは、住む人の満足につながります。そして、構造や断熱、気密、防露、通気といった見えない性能は、その暮らしを長期間支えます。

限られた予算の中で何を優先するかに、唯一の正解はありません。

ただ、家づくりを考えるときには、目に見えるものだけではなく、

完成すると見えなくなるものにも、どれだけの価値があるのか。

一度考えてみることをお勧めします。

誰にも褒められないところに、お金をかける。

それは派手ではありませんが、長く住む住宅だからこそ成り立つ、一つの合理的な選択ではないでしょうか。

投稿者プロフィール

伊豆川達也
伊豆川達也宅地建物取引士