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なぜ日本には○○工法が多いのか?― 世界からみる日本の木造住宅

日本の住宅業界には、実にたくさんの「○○工法」があります。

SE構法、WB工法、ソーラーサーキット工法、OMソーラー。

ほかにも金物工法、外断熱工法、通気工法、蓄熱を利用する工法など、数え始めればきりがありません。

ところが海外の木造住宅に目を向けると、少し様子が違います。

北米を中心に広く普及しているのは、2×4や2×6などの規格材で壁をつくり、構造用面材を張り、床・壁・屋根を一体化する「light wood-frame construction」。(出展:カナダ森林協会

日本でいうツーバイフォー工法です。

米国でもカナダでも、オーストラリアでもニュージーランドでも、細かな建築基準や材料寸法は違いますが、基本となる構造のコンセプトはほとんど変わりません。

それなのに、施工棟数は日本の在来工法よりはるかに多い。

なぜなのでしょうか。

まず、日本の在来工法は年間何棟建っているのか

2025年度、日本の新設住宅着工戸数は71万1,171戸でした。

そのうち木造は42万3,198戸。

ここから木質プレハブ9,913戸とツーバイフォー8万8,284戸を除くと、いわゆる在来工法は約32万5,001戸になります。

つまり、日本で年間に建てられる在来軸組住宅は約32.5万戸です。(出展:日本政府統計

ここで面白いのが国の統計上の分類です。

建築着工統計では住宅の工法を、

1.「在来工法」
2.「プレハブ工法」 ← ハウスメーカー
3.「枠組壁工法」← ツーバイフォー工法

の3つに分類しており、在来工法の定義は、

「プレハブ工法及び枠組壁工法以外」

です。

したがって、「○○工法」という独自の名称を持っていても、それがプレハブや枠組壁工法でなければ、統計上は大きな意味で「在来工法」に含まれます。

SEもWBもOMも、統計では「在来」の中

ここは少し整理が必要です。

たとえばSE構法は、集成材の柱・梁と専用金物を使った木造ラーメン構造で、一般的な在来軸組とは構造的にもかなり違います。SE構法の開発元NCN社自身も「金物仕口を用いた木造軸組構法」と説明しています。

一方、WB工法やソーラーサーキット、OMソーラーは、厳密には構造そのものを変える工法というより、

  • 通気、
  • 断熱、
  • 換気、
  • 太陽熱利用、

などを在来軸組住宅に組み込んだ「住宅システム」に近いものです。

ソーラーサーキットの公式なプラン例も構造は「木造在来軸組工法」と明記されています。

つまり日本で「○○工法」と呼ばれているものには、

構造そのものを変えたものと、在来構造に別の機能を加えたものが混在しているのです。

しかし、国の着工統計には「SE構法」「WB工法」「OMソーラー」という欄はありません。

すべて大きな32万戸の「在来工法」という箱の中に入っていきます。

有名なSE構法でも在来全体の約0.34%

試しに、年間棟数が公表されているSE構法を見てみます。

NCN社によれば2025年度のSE構法の住宅出荷棟数は1,115棟です。

在来工法約32万5,000戸を分母にすると、

約0.34%です。

もちろんSE構法は住宅以外にも使われていますし、単純な市場シェア比較ではありません。

それでも、住宅業界では非常によく知られた独自構法であっても、日本の在来工法全体から見れば1%にも満たない規模です。

WB工法、OMソーラー、ソーラーサーキットなどについては、現在の年間全国採用棟数を同じ条件で比較できる公的統計がないため正確な割合は出せません。

しかし、それぞれが在来工法32万戸の一部であることに変わりはありません。

一方、2×4・2×6系は桁が違う

では世界を見るとどうでしょう。

まず米国です。

2024年に完成した一戸建て住宅のうち、木造フレーム住宅は約95万9,000戸。(出展:全米住宅建設協会

シェアは94%でした。

この「wood framing」には日本の枠組壁工法と完全に同じ定義だけが含まれるわけではありませんが、その中心となるのは2×4、2×6などの反復する小断面材と面材で構成するlight wood-frameです。

米国一国だけで、

日本の在来工法約32.5万戸に対して、約95.9万戸。

約3倍です。

さらに日本のツーバイフォーが約8.8万戸、オーストラリアでは年間11万戸前後の戸建住宅が着工し、調査では戸建住宅の約91%で木造フレームが採用されています。(出展:オーストラリア統計局

米国、日本、オーストラリアだけを見ても、2×4・2×6系を中心とするライトウッドフレーム住宅は年間110万戸を超える規模になります。

カナダやニュージーランドを加えれば、さらに増えます。

厳密には国によって「着工」「完成」「許可」の統計が異なるため、これを正式な世界シェアとして扱うことはできません。

それでも住宅産業の「年間規模」を比較するには十分でしょう。

仮に、

在来工法 約32.5万戸

に対して、

2×4・2×6系light wood-frame 110万戸以上

として、この米国と日本とオーストラリアを100%とすると、

在来工法 約23%
ライトウッドフレーム 約77%

というイメージになります。

世界的には、むしろ2×4・2×6系の方がはるかに巨大な住宅生産システムなのです。

それなのに、なぜ「○○ツーバイフォー工法」は少ないのか

ここが今回、一番考えてみたいところです。

在来工法には多くの派生工法や独自システムがあります。

ところが、世界で100万戸を超える規模で建てられているライトウッドフレームでは、

「○○2×4工法」
「△△プラットフォーム工法」

という名前を次々につけて、別の工法として販売する文化はあまり見られません。

もちろんツーバイフォーも進化しています。

2×4を2×6にしたり、床にI型ジョイストを使ったり、屋根トラスを使ったり、面材を変えたり、パネル化したり、断熱材を厚くしたりします。

地域によって耐震・耐風・防火の仕様も変わります。

しかし、それでも基本構造は同じです。

米国のWood Frame Construction Manualも、木造住宅を壁・床・屋根・接合部という共通のシステムとして規定しています。

オーストラリアでもplatform framingが最も一般的な構成とされ、下階の壁の上に床を載せ、その上に次の階の壁をつくります。

つまり、

改良はする。しかし改良するたびに別の「工法」にはならない。

ここが大きな違いです。

在来工法は「完成品」ではなく「プラットフォーム」に近い

なぜ在来工法には派生工法が生まれやすいのか。

私は、在来工法そのものの自由度の高さが大きいと思います。

柱と梁を基本としているため、

  • 接合部を変える。
  • 耐力壁を変える。
  • 外側に面材を張る。
  • 外断熱にする。
  • 壁の中に通気層をつくる。
  • 床下に空気を流す。
  • 屋根で集熱する。

といったアレンジが比較的容易です。

これは在来工法の大きな長所でもあります。

一方で、裏を返せば、

「在来工法」という言葉だけでは、その家が実際にどのようにつくられているのか分からない

ということでもあります。

構造形式から断熱、気密、換気、通気までを一体として定義しているわけではないからです。

だから、その不足する部分を補った技術が一つのパッケージになると、

「○○工法」

という新しい名前を付ける余地が生まれます。

「工法」という言葉が商品名になった日本

もう一つは、日本独特の住宅産業の構造です。

地域工務店や住宅会社が数多く存在する市場では、

「普通の在来工法です」

だけでは他社との差別化が難しい。

そこで、

  • 耐震性を高めた構造
  • 壁体内の湿気を排出する仕組み
  • 太陽熱を利用する仕組み
  • 独自の断熱・換気方法

などをパッケージ化して名前を付けます。

技術的な意味での「工法」だけではなく、

家づくりの特徴を一言で伝えるブランドとして「○○工法」という言葉が使われてきた

側面も大きいと思います。

だからこそ、構造であるSE構法と、温熱システムであるOMソーラーやWB工法が、消費者から見ると同じ「○○工法」というカテゴリーに見えてしまうのです。

ツーバイフォーは「アレンジできない」のではない

ではツーバイフォーは自由度がなく、何も改良できない工法なのでしょうか。

そうではありません。

むしろ世界中で長年使われてきたため、非常に多くの改良が行われています。

ただし、

スタッドを一定間隔で並べ、

面材を固定し、

床をダイヤフラム(水平構面)としてつくり、

その床の上に次の階の壁を立て、

壁・床・屋根を緊結して荷重を基礎へ伝える、

という基本的な構造の文法を変える必要がほとんどないのです。

改良してもツーバイフォーのまま。

断熱性能を上げてもツーバイフォー。

2×6にしても基本思想は同じ。

屋根トラスを使ってもlight wood-frame。

これこそ、世界各国で大量に使われながら基本形が大きく変わらない理由ではないでしょうか。

派生工法が多いことは、必ずしも悪いことではない

ここは誤解のないようにしておきたいところです。

在来工法から多くの派生工法が生まれたこと自体は、欠点ではありません。

自由に改良できることは在来工法の大きな長所ですし、日本独特の高温多湿な気候や地震への対応から生まれた優れた技術もあります。

ただ、年間32万戸ほどの市場からこれほど多くの「○○工法」が生まれている一方で、その数倍の住宅が建てられている2×4・2×6系では、世界各地でほぼ共通した構造原理が使われ続けている。

この対比は興味深いと思います。

「完成した工法」とは何か

ツーバイフォー工法を「完成した工法」と表現すると、少し大げさに聞こえるかもしれません。

もちろん建築に完成はありません。

材料も断熱性能も耐震技術も、これからさらに進化するでしょう。

しかしここでいう「完成」とは、

もう工夫する必要がないという意味ではありません。

基本となる構造原理と施工ルールが十分に整理され、

工夫しても、わざわざ別の工法名を付ける必要がない。

という意味です。

世界で年間100万戸を超える規模で使われても、基本的な構造思想は変わらない。

一方、日本の在来工法は年間約32万戸という市場の中で、構造、通気、断熱、換気、太陽熱利用など、さまざまな技術を取り込みながら数多くの「○○工法」を生み出してきました。

それは在来工法の柔軟性の証明でもあります。

しかし同時に、

ツーバイフォーという工法が、極めてシンプルでありながら、最初から一つの建築システムとして高い完成度を持っていた

ことの証明でもあるのかもしれません。

投稿者プロフィール

伊豆川達也
伊豆川達也宅地建物取引士