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高気密住宅は乾燥する?は本当か… ―湿度もコントロールできる家―
高性能住宅ほど冬に乾燥する?
――よくある認識を、冷静に分析してみる
「最近の高性能住宅は、冬にとても乾燥する」
住宅業界でも、住まい手の間でも、半ば“常識”のように語られる言葉です。
その理由として、
「気密性が高いから空気がこもる」
「昔の家より息苦しい」
「だから乾燥する」
といった説明が添えられることもあります。
しかし本当に、高断熱・高気密化そのものが、冬の過乾燥を進めているのでしょうか。
静岡を含む太平洋側の気候条件を踏まえながら、その因果関係を整理してみます。
乾燥の正体は「相対湿度が下がる」こと
まず押さえておきたいのは、
冬の乾燥とは「水分が消える現象」ではなく、「相対湿度が下がる現象」だという点です
冬の太平洋側では、晴天が多く、外気温が低い日が続きます。
このとき外気は、もともと絶対湿度(水蒸気量)が非常に少ない状態です。
例えば、
・外気:5℃・湿度60%
・この空気を室内で20℃まで暖める
すると、水蒸気量は変わらないまま温度だけが上がるため、相対湿度は22%まで低下します。

これは、住宅の性能とは無関係に起きる、空気の物理的な現象そのものです。
換気がある限り、冬の乾燥は避けられない
現在の住宅では、建築基準法により24時間換気が義務化されています。
つまり、どんな家であっても、外気を取り入れ室内の空気を排出する
という行為が、常に行われています。
冬の外気が乾いている以上、
換気=乾いた空気を室内に入れる行為でもあります。
これは、高気密住宅、そうでない住宅どちらであっても、原理は同じです。
「高性能住宅だから乾燥する」のではなく、
冬の外気を換気で取り入れ、室温を上げる限り、乾燥は起きる
というのが、まず大前提になります。
それでも「高性能住宅は乾燥する」と感じやすい理由
ではなぜ、高断熱・高気密住宅に住み替えた人ほど、
「前の家より乾燥する」と感じやすいのでしょうか。
理由① 室温が高く、安定している
高性能住宅では、室温が下がりにくく、
20℃前後の暖かさを一日中保ちやすくなります。
その結果、相対湿度が低い状態が長時間、安定して続くことになります。
昔の住宅のように、
「朝晩は寒い」「部屋ごとに温度が違う」
といった環境では、乾燥している時間帯も短く、意識されにくかったのです。
理由② 開放型暖房器具を使わなくなった
古い住宅では、石油ストーブ、ガスストーブ、やかん加湿といった
開放型燃焼器具が、当たり前のように使われていました。
これらは、燃焼と同時に大量の水蒸気を室内に放出します。
安全性や空気質の面では問題がある一方、
「結果的に湿度が保たれていた」という側面も否定できません。
高性能住宅では、エアコン、床暖房、全館空調など非燃焼型暖房が主流になります。
そのため、「勝手に増える湿気」がなくなり、乾燥が顕在化しやすくなります。
理由③ 換気が「正しく」機能している
高気密住宅では、計画換気が設計通りに機能し、局所換気(キッチン・浴室)も強力になります。
これは空気質の面では大きなメリットですが、
同時に、生活で発生した水蒸気も、きちんと屋外へ排出されることを意味します。
結果として、
「昔より空気はきれいだけれど、乾燥を感じやすい」
という状態が生まれます。
「気密が高いから乾燥する」という理屈は正しいのか?
ここが、最も誤解されやすいポイントです。
結論から言えば、
「気密性能の向上そのものが、冬の過乾燥を直接進める」
という単純な因果関係は成立しません。
むしろ、気密が高いからこそ換気量を正確に制御でき、不要な隙間風(制御不能な外気流入)を減らせるという側面があります。
「高性能住宅=乾燥」という印象は、
性能向上と同時に変化した暮らし方・設備・暖房方式が、
まとめて体験されることで生まれたもの、と考える方が現実的です。
静岡の冬における、現実的な向き合い方
静岡を含む太平洋側では、
- 冬の外気は乾燥している
- 換気は必須である
- 高断熱住宅では室温が安定する
この条件がそろう以上、
「冬は乾燥しやすい」という前提に立つことが重要です。
そのうえで、
- 加湿を前提にした暮らし方
- 換気方式(全熱交換など)の検討
- お風呂場の換気のしかた(循環ファン)
- 室内に水分をため込める素材や生活発湿の工夫
といった設計と運用のバランスが、快適性を左右します。
まとめ
高性能住宅は「乾燥する家」ではなく、「湿度まで設計できる家」
高断熱・高気密住宅は、
外気の影響を遮断し、室内環境を計画的にコントロールできる住宅です。
そのため、冬の外気が乾いていれば換気によってその影響も、正直に室内へ現れる
これが「高性能住宅は乾燥する」と感じられる大きな理由です。
ただし、それは性能の欠点ではありません。
むしろ、湿度も含めて設計で扱える領域に入ったと捉えるべき変化です。
例えば、**第一種熱交換換気システムの中でも「全熱交換型」**を採用した場合、
温度(顕熱)だけでなく、湿気(潜熱)も回収することができます。

全熱交換型では、
・排気する室内空気に含まれる水蒸気のうち
・おおよそ60%前後を給気側に戻すことが可能
とされており、
外気を取り入れながらも、室内の乾燥を大きく緩和する効果が期待できます。
つまり、高性能住宅とは、冬に乾燥しやすい家ではなく換気方式・暖房方式・加湿を含めて、室内環境を設計できる家なのです。
乾燥を「高性能のせい」にするのではなく、
どの換気方式を選び、どう暮らすかまで含めて考えること。
それが、これからの高性能住宅と上手に付き合うための、現実的な答えではないでしょうか。
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