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「パーフェクト・ウォール」のすすめ

ジョー・ルスティブレック(Joseph W. Lstiburek)博士は、米国のBuilding Science Corporationの建築科学者であり、建物外皮の性能と年耐久性の向上に長年取り組んできた人物です。 U.S. Department of Energy

彼が2010年に提唱した「パーフェクト・ウォール」は、建物の壁の設計原則を体系化した概念です。

基本コンセプト:「環境の分離体」

パーフェクト・ウォールとは「環境の分離体(environmental separator)」であり、外部を外に保ち、内部を内に保つことを目的とします。そのために、壁の構成は雨水・空気・湿気・熱の4つをコントロールしなければなりません。 Building Science

昔は石を積み上げれば一つの素材がすべての役割を果たしましたが、石は重くてコストがかかるため、建築は進化してきました。 Building Science

日本の場合は、屋根(軒)を長く掛けることで、雨水を避け、木(構造体)を露出したまま空気にさらして湿気をコントロールしましたが、熱は無視しました。

4つのコントロール層(重要度順)

現代の壁には4つの主要なコントロール層が必要で、重要度の高い順に並べると次のようになります。「雨水コントロール層」→「気密コントロール層」→「湿気コントロール層」→「断熱コントロール層」です。この重要度の順番に意味があります。雨水を防げなければ気密を考えても意味がなく、気密が確保できなければ湿気コントロールを考えても意味がありません。 Building Science

なぜすべてを「構造体の外側」に置くのか?

最良の場所はすべてのコントロール層を構造体の外側に配置することです。断熱材を構造体の内側に入れると、断熱材は構造体を熱・寒さから守ることができません。温度変化によって引き起こされる膨張・収縮・腐食・劣化・紫外線ダメージ—これらほぼすべての「悪いこと」は温度の関数です。だからこそ、構造体が極端な温度変化にさらされないよう、コントロール層をすべて外側に配置し、構造体を守るのです。

「パーフェクト・ウォール」の3つの大きなメリット

① 構造体の長寿命化 構造体を温度の極端な変化から守り、水分(固体・液体・気体)と紫外線から保護することで、耐久性が飛躍的に向上します。 Building Scienceこれにより「500年住宅」という概念が生まれています。

② 気密性の確保による室内環境の制御 空気をコントロールするには、まず空気を閉じ込めなければなりません。真に気密な外皮があってはじめて、フィルタリング・換気・温湿度管理といった室内環境のコントロールが可能になります。 Building Science

③ あらゆる気候帯で有効 パーフェクト・ウォールは、ほぼどの気候帯でも機能する非常に効率的で耐久性の高い工法です。ただし、寒冷地では非常に厚い外部断熱材が必要になるため、実施が複雑・高価になることもあります。 Fine Homebuilding

ウォールから屋根・床へ

物理の法則は壁でも床でも屋根でも変わりません。パーフェクト・ウォールを水平に倒せばパーフェクト・ルーフになり、同じ原則がスラブ(基礎床)にも適用されます。 JLC Online

近年の発展:「リシンキング・パーフェクト・ウォール」

2010年に発表された当初の「パーフェクト・ウォール」は画期的でしたが、昨今では建築科学を超えた視点も加わっています。気候変動による自然災害リスク(強風・洪水・山火事など)の増大や建設業の人手不足も考慮した、より包括的なリスク評価が求められるようになっています。 Green Builder Media

パーフェクト・ウォールまとめ

役割配置場所
① 雨水コントロール層液体の水の侵入防止構造体の外側
② 気密コントロール層空気(=水分)の移動防止構造体の外側
③ 湿気コントロール層水蒸気の拡散制御構造体の外側
④ 断熱コントロール層熱の移動制御構造体の外側(外張り断熱)

コントロール層は単一の連続した材料であることはまれなので、それらの統合・連続性が重要です。特に気密層の連続性が気密測定試験で高い性能を実現する鍵となります。 Fine Homebuilding

日本では、まだそのまま真似するのは難しい

では、このパーフェクトウォールの考え方を、日本でもそのまま取り入れられるのかというと、現状ではまだ難しい部分があります。

まず、日本の住宅では、外壁の室内側に防湿シートを張る考え方が一般的です。もちろん、充填断熱を使わず、断熱をすべて外断熱でまかなうのであれば、室内側に防湿層を設けない構成も考えられます。
ただ、実際には外断熱だけで十分な断熱性能を確保しようとすると、断熱材の厚みやコスト、納まりの面でハードルがあり、日本の一般的な住宅で広く採用するにはまだ難しさがあります。

さらに、アメリカの ZIP System のように、防水・透湿・気密の役割を外側で一体的に担える材料やシステムは、日本ではまだ十分に普及しているとは言えません。
そのため、パーフェクトウォールが目指す「雨も空気も湿気も、できるだけ外側でコントロールする」という考え方を、そのまま形にするのは簡単ではないのが現状です。

とはいえ、この考え方が日本でまったく使えないわけではありません。
たとえば今でもできることとして、室内側に張る気密・防湿シートを、ただ強く湿気を止めるものではなく、透湿性や可変透湿性を持った材料に見直すという方法があります。
そうすることで、気密をしっかり確保しながら、壁の中に入った湿気が逃げやすい方向へ少しずつ近づけていくことができます。

パーフェクトウォールは、単に「アメリカで流行っている壁の作り方」という話ではありません。
雨をどう防ぐか、空気をどう止めるか、湿気をどう逃がすか、熱をどう守るか。
それぞれをどこで受け持つのが合理的なのかを考え直すための、とても示唆の多い考え方です。

日本でも、HEAT20に代表される高性能住宅への関心が高まり、付加断熱が少しずつ広がっていく中で、この発想は今後ますます注目されていくはずです。
すぐにそのまま再現するのは難しくても、そこにある思想を理解し、日本の気候や工法に合う形へ置き換えていくことには、大きな意味があるのではないでしょうか。

投稿者プロフィール

伊豆川達也
伊豆川達也宅地建物取引士