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【制震装置】ツーバイフォー工法と在来工法における制震装置の意味は違う
地震対策として近年注目されている「制震装置」
在来軸組工法でもツーバイフォー工法でも取り付けが可能ですが、
実は同じ“制震”でも構造の違いによってその働き方はまったく異なります。
今回は、両工法における制震装置のメカニズムをわかりやすく解説します。
在来軸組工法は「制震装置と相性が良い」
在来軸組工法は、柱と梁を※仕口や金物で組み上げる「※ピン接合」の構造です。
仕口とは、(More for click!)

仕口(しぐち)とは、木造建築で柱・梁・桁など複数の木材をつなぐために設ける切り欠きや凹凸形状による接合部のこと。材料同士が噛み合うことで、荷重を受けたり位置を正確に保つ役割を持つ。ほぞ差し・鎌継ぎ・追掛大栓など多様な形式があり、金物に頼らず木の形状そのものによって強度・安定性・伝統的な美しさを確保する技術である。
ピン接合とは、(More for click!)

ピン接合とは、柱・梁・筋かいなどの 部材同士を回転できる状態でつなぐ接合方法
① 回転は自由
② 軸方向(引張・圧縮)の力は伝える
③ せん断力もある程度は伝える
地震の際、この接合部を中心に柱と梁がわずかに“開脚”し、建物全体がしなやかに揺れる性質を持ちます。
この時、筋かいや金物などが角度の変化を制限し、建物の形を保っていますが、
大きな揺れになるとその制限範囲を超えて変形し始めます。
ここで制震装置(ダンパー)が動き出し、梁と柱の開閉運動を抑える摩擦や粘性抵抗が発生。
その抵抗が地震エネルギーを熱に変換して放出し、揺れを抑える仕組みです。
つまり在来工法は、「動く」ことでエネルギーを吸収できる構造。
この“動きを抑える”制震装置とは非常に相性が良く、
地震時の変形量を大きく減らす効果を発揮します。
ツーバイフォー工法では「働き方が違う」
一方、ツーバイフォー(2×4)工法は壁全体で地震の力を受ける“面構造”。
梁や柱ではなく、構造用合板(OSBなど)で箱のように囲うため、
地震時にも梁と柱が大きく動くことはありません。
そのため、「制震装置が動くほどの角度変形がそもそも起きないのでは?」という疑問を持つ方も多いでしょう。
実際、ツーバイフォー住宅では変形量が小さく、
在来工法に比べて制震装置が働く機会は少ないのが実情です。
ただし、最近では小さな変形でも作動する制震ダンパーが開発されています。
たとえば、住友ゴムの「MIRAIE for 2×4」やカネシンの「Kブレース」などは、
壁パネルのわずかなせん断変形(1/400ラジアン)から減衰力を発揮できるように設計されています。
このため、ツーバイフォー工法の場合、制震装置は「倒壊を防ぐため」ではなく、
揺れの継続時間を短くし、家具転倒や内部損傷を減らす補助的な役割として機能します。
両者の比較 ― 制震装置の“働き方の違い”
| 比較項目 | 在来軸組工法 | ツーバイフォー工法 |
|---|---|---|
| 主な変形 | 柱と梁の開脚変形(ピン接合) | 壁パネル全体のせん断変形 |
| 制震装置の作動条件 | 比較的大きな角度変形(1/200〜1/100)で作動 | 小変形(1/400)から作動するタイプが必要 |
| ダンパーの主な効果 | 揺れそのものを大きく吸収して変位を低減 | 揺れの持続を短くし、応答加速度を低減 |
| 設置位置 | 柱間・筋かい部など | 壁パネル内や開口部補強フレーム内 |

在来軸組工法は「動きを抑える」構造、
ツーバイフォー工法は「揺れを面で受け止める」構造。
同じ制震装置でも、どちらの工法に付けるかで“目的”が変わるのです。
制震装置のタイプ別メカニズムと特徴
| タイプ | メカニズム | 主な特徴 | 適した構造 |
|---|---|---|---|
| 粘弾性ダンパー | ゴム・樹脂のような弾性体が揺れを熱に変換 | 小さな揺れにも反応。繰り返し地震に強い | 在来・2×4両方に◎ |
| オイルダンパー(油圧式) | シリンダー内のオイル抵抗で減衰 | 大きな揺れでも安定。応答制御性が高い | 在来軸組に最適 |
| 鋼材ダンパー | 鋼板の塑性変形でエネルギー吸収 | 一度変形すると交換が必要 | 在来・鉄骨向き |
| 摩擦ダンパー | 金属同士の摩擦で揺れを吸収 | 構造がシンプル。メンテ性良 | 在来に◎ |
木造住宅では、粘弾性ダンパー+ベタ基礎構造の組み合わせが特に効果的です。
揺れを吸収しつつ、基礎から建物全体にかかる力を分散できます。
結論:制震は“構造の個性を活かす技術”
制震装置は、在来工法では「柱・梁の動きを抑えてエネルギーを吸収する装置」、
ツーバイフォー工法では「面のわずかな変形を吸収する装置」として働きます。
どちらも「地震エネルギーを熱に変換して逃がす」という原理は同じですが、
働く範囲と目的が異なるのです。
耐震性能が年々高まる一方で、“揺れ方の質”を制御する技術が制震。
構造の特性を理解し、それに合った制震設計を選ぶことで、
大地震後でも安心して暮らせる“しなやかな家”をつくることができます。
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